ダン・ブラックモア

英国から派遣された元軍人のマスター。
女王から騎士[サー]の称号を授かった歴戦の兵士で、若い頃は狙撃手としても名を馳せた。
英国王室は西欧財閥の一翼ではあるが、その指導権を巡ってハーウェイと対立している。
ハーウェイがムーンセル・オートマトンにアクセスし、これを独占する恐れがあると聞きつけた女王はもっとも信頼するプライベート・ソルジャーを月に派遣した。それがダン卿である。
ダンは古い家柄の出で、その体には魔術回路が備わっていた。魔術師の血を嫌っていたダンだが、女王陛下に頼みとされては断れない。
退役間近であっても彼は軍人であり、軍人として生きたからには、最後まで職務を全うするのみ。
こうして一年間の訓練・調整を経て、彼は霊子ハッカーとなった。齢六十歳、遅咲きの魔術師として。

ダンが聖杯戦争に求めるものは『騎士』としての戦いである。
サーの称号を戴きはしたが、彼は多くの戦場を渡り歩いた軍人だ。その過程で多くのものを失ってきた。
理想も、伴侶も、若い頃に夢想した自分の人生も、戦火の中に焼け落ちた。
そうして生き延びた彼に与えられたものは退役という終わりだけ。
明確な線引き、明確な戦いを深層意識で求めていたダンにとって、聖杯戦争は騎士として戦える最後のチャンスとして映ったのだろう。
ダン・ブラックモアが主人公に提示するものは『信念』だ。
老兵は語る。

「後悔はあっても、それを言い訳にしてはいけない。
私は与えられた道で最善を尽くした。
たとえその道がいびつなものであったとしても、私は、私の魂を示し続けた」

敵兵を殺し、妻を失いながらも、武器を手にした事を彼は誤魔化しはしなかった。
武器を手にした以上、人は責任を負わなければならない。殺した相手にも、その道を選んだ自分という命にも。
いまだ戦う意義を見いだせずにいた主人公を、老兵は憐れみ、送り出す。
責任の智を問われるのは最後の時だ。
それまで、君が立ち止まれる理由はない、と。
それは或る騎士の物語。
記憶が戻らず、聖杯を求めていた理由さえ曖昧な主人公にとって、その遺言は背中を押す父親のようですらあった。

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