ロード・エルメロイが駆使する礼装の一つ。魔力を充填した水銀に多鍾多様な行動パターンを記憶させ、状況に応じた最善の反応をとるよう設定したもの。戦闘用ゴーレムの一種と言えなくもない。こと物理エネルギーとしての破壊力においてはケイネスの武装の中でも最強。彼はこれ以外にも呪術戦、幻術戦に特化した礼装を多数用意していたが、切嗣によるホテル爆破によって大多数が失われた。月霊髄液の多機能性は万能兵器と呼ぶに相応しいものの、所詮は自動機械であり、ひとたび行動パターンを見切られてしまうと対処されやすい。また操作に費やす魔力は形態の複雑さに比例するため、なるべく単純な形態を維持する必要があるが、いったん液圧をかけにくい形態に変形してしまうと、次の動作は反応速度、パワーともに著しく劣化する。最後のウニ型変形は防御力と機敏さを両立させうる形態だったが、それに費やすケイネスの魔力負担は相当なものだっただろう。
ちなみに後のエルメロイII世は、この目霊髄液を改良進化させて多機能メイドゴーレムとして使役しているとかいないとか。簡単な家事雑役をこなせる程度の思考力を持つものの、時々自分のことを未来から来た殺人兵器だと主張して暴走する困ったバグがあるらしい。よほど情操教育に有害な映画でも見せたんでしょうか。
魔術
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魔術礼装
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魔術礼装
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エルメロイ家の至上礼装。
至上礼装とは、君主を輩出する十二家やそれに匹敵する名家の蔵する中でも、その家系を象徴するに足ると認められた特別な礼装である。月霊髄液の場合、いまだ二十代前半であった君主ケイネスがつくったというのだから、先代がいかに優秀だったかが窺いしれる。
変幻自在、攻守に隙のない魔術礼装でありつつ、その本来の性能は隔絶した演算機であった。
ライネスが受け継いだ際、エルメロイII世の助言を受けて、初歩的な人工知性を付与された使い魔に加工される。これはケイネスほどの優れた魔術回路は持たないものの、精密操作においては特筆すべき才能を持ったライネスに、ベストなアドバイスだった。
ライネスの精密操作を人工知性に覚えさせれば、その通りに模倣してくれるためだ。新たにトリムマウと名付けられた月霊髄液が、さまざまな変形パターンを見せるのは、このアドバイスによるところが大きい。
なお、その性質上、フラットの魔術ハッキングから(人工知性が)学ぶところも多い。余計な知恵や名言を大量に詰め込まれつつも、フラットとの行動をライネスが黙認しているのは、このメリットのためである。
翻訳者注
- ^ ヴォールメン・ハイドラグラム